私たちの太田村は、南から順に上原(かみはら)、中原、西原、今原、小原(こばら)、下原(しもばら)、と「原」のつく地名が多くあるように、どちらかと言えば、一帯が河原地で、藪が多く、たぬきがたくさん棲んでおったそうな。
たぬきは、昼と夜を問わず、ところ構わず出歩くし、畑の野菜や実の物を食い荒らすので、村人にとっては大の嫌われ者であった。
むかし、太田の今原に、ゴンタとあだ名される大だぬきが現れた。
『おれは、屋島の太三郎、浄願寺のハゲとならぶ、太田のゴンタ様だ』
と、暴れん坊ぶりが自慢だが、なかなか情も厚く、仲間のうちでは、いい親分であった。
ゴンタは人間が好きで、人の集まる所なら、どこへでも出たがった。ことに祭りが大好きで、何とかして人間と一緒に祭りを楽しみたいと思っていた。
「おれたちは、村のもんに嫌われたくない。こんどの祭りには何としても参加してみんなで祭りを楽しむんだ。」
そんなとき、いつも叱られていた庄屋さんのことをふと思い出した。
「そうだ、庄屋さんに化けて祭りに行こう。庄屋さんは祭りには必ず裃を身に着け、神輿みこしの先頭を歩く。おれも、同じような格好をして、祭りに出よう。そうして庄屋さんや村の人を驚かしてやるんだ。」
祭りの日になった。ゴンタは近くの百姓家の納屋から雨具の箕みのを借りてきて裃代わりにし、ちょんまげ代わりに、畑のじいも(サトイモ)の葉を裏返しに頭に載せて祭りに出かけた。神輿行列の真っ最中、ゴンタが大威張りで村人たちの前に現れたから大変である。
びっくりしたのは庄屋である。
「ゴンタではないか。たぬきの分際で、ようもこんな所に出られたもんだ。行列を穢けがしたとなれば、その分にはしておかんぞ。」
ゴンタは、さすが豪傑だぬき。負けてはいない。
「庄屋さん、おらは太田の今原のたぬきじゃ。今原のもんが太田の祭りに来てどこが悪い。今日は、おらは太田の人間じゃ。庄屋さんの真似をして祭りに来たんじゃ。」
庄屋はゴンタの姿をじっと見てこう言った。
「祭りには、太田のもんならみんな来たらええ。それはわしの願いじゃ。それにしても、ゴンタは良いことを言ってくれた。お前の言う通りじゃ。わしの負けじゃ。今日からは、お前たちもみんな太田のもんじゃ。すぐにみんなを呼んでくるがよい。村中みんなで太田の祭りを祝うんじゃ。」
ゴンタの喜びようは大変なものであった。
「今日から、おらたちは人間様だい。サァーサァ祭りだ、祭りだ・・・」ゴンタは庄屋に化けているのを忘れて、たぬきのままの姿で走り回っていたそうである。